Babe Honey Love 3


 こんばんは。

 ちょっとプロフィール画像をご覧ください。へへへ、これを給付金でぽちった。赤毛シバのポーチです。中身は飴ちゃん。お昼に周りの人々が「飴ちゃん食べる?」と回してくれるので、代わりにあげる飴を入れてます。飴ちゃん、そんなに食べないんですけどね。




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「Babe Honey Love」3




  朝、岡部は出勤するなり「ちょっと、いいか?」と薪に呼び止められた。まだ手にした鞄もそのままの状態で、いくぶん顔を青ざめさせた薪と向い合う。けさの彼は元気がないように見えた。普段と変わらない、何気ない声で話し始めたのだが、口調にどこか暗さが滲んで覇気がない。

「青木は……今日は休みを取らせた」

 薪は緩く目蓋を伏せながら、朝、青木から有給申請の連絡を受けたという。

「じゃぁ、青木のやつ、ようやく病院へ行ったんですね?」

 先日、青木が職務中に倒れてからこっち、体調が戻らないのか顔色が悪いのを岡部も気になっていた。一度、きっちり病院で見てもらえとなんども進めたが、そういうところは青木も頑固で、『いえ、大丈夫ですから』と決して首を縦に振らなかった。そうか、なんとか重い腰を上げたんだな。良かった、薪さんもこれでひと安心だろう。だが、それにしても薪の顔付きは浮かない。青木の具合が、さぞ気になっているようだ。

「おそらく……いや、行っていると思う」

 薪の自信なさげな声に岡部は目を眇めた。青木から、『今日は病院へ行くので休みます』と室長宛てに連絡が入ったんじゃないのか。それなのにどうして「おそらく」なのだ?この頃薪さんは青木の事になると少し態度が不審になる。先日も青木が朝食を取った、と言い張ったしな。なんかおかしくないか?微かに感じる違和感に岡部は目を見開いた。

 その、訝し気な岡部の目に気づいて薪は、あわてて言い添えた。

「なんだか……行きたくなさそうだったんだ。たかが検査を受けるだけなのに、青木のやつ、妙に嫌がってたんだよ。だから、病院へ行くと言いながら、どっかでさぼったりしてないだろうか、と」

「青木に限ってそんなことは……あれでしょ?薪さんが検査へ行けと言ったんでしょ。あんたのいうことはあいつにとっては絶対ですから、行ってるでしょうよ」

 と岡部は薪の細い肩を力いっぱい叩き「今頃病院の体重計の上ですよ」と自信満々に答えた。


 朝のミーテイングもまだだ。すでに第九のメンバーは全員そろっているのに、薪と岡部のふたりは、ひそひそと部屋の中央で話し続けている。いくら声を潜めても彼らがいるのは捜査室のど真ん中だ。一同の耳はふたりの会話をすべて拾おうと、ひらひらとダンボ状態で踊っている。青木が休んで病院へ行った。それだけが会話の内容なのに、なぜかなかなか終わりそうもない。しびれを切らした小池がふたりの話しに割って入った。

「青木のやつ、ようやく今日、病院へ行ったんですか?このところずいぶん気持ち悪そうにしてて、スプラッタな場面が出る度にトイレに走ってましたからね。早く行けって俺たちも言っていたんですが……ようやく行く気になったんだ。良かったですよ」

 小池の説明に横で曽我もうんうん、とうなずいた。

「そうそう、昼食も食べられなかったようで、青木のやつ、好物のハンバーグ定食を半分俺にくれたんです。ぜったいにあれはどっか悪い。あんなに若いのに青木にやつ……」

 こほん、と咳払いをしたのは今井だった。

「心配ないだろ?ここへきて半年、最初は気が張っているからそうでもないが、そろそろ疲れが出たんじゃないか。慣れた弾みで調子を崩したんだろう」

 さすが今井である。綺麗に話しをまとめ、「そんなとこでしょうか?」と薪を見た。薪が何も答えないのを代わりに問うた。

「じゃあ、薪さん、今日の割り振りは昨日の続きでいいですか?」

「……あ、そうだったな。遅くなってしまって……今日は青木が休むから、その分は曽我、おまえがカバーしてくれ」

「えぇーー俺がですか?」

 曽我はつぶらな目をさらに可愛らしく瞬きしてみせたが、それを薪に一瞥されただけだった。

「頼んだぞ、おまえもよく青木に手伝ってもらっているじゃないか、たまには反対に手を貸してやれ」

 いいな、と言い残し薪は自室へ引き上げた。

 


 身頃の打ち合わせが着物のようになった青い上下を着せられ、青木は看護師に連れられて奥の検査室へ向かった。カーテンで仕切られた薄暗い部屋はベッドとモニター画面。なんだか第九の捜査室に似ている気がする。そういえば今頃、みんなは頑張っているんだろうな、とふと思う。

「では、すぐに先生が来ますからね。そこで腰かけて待っててください」

 看護師はおそらく青木と同年代だろう。ほっそりした身体に淡いグリーンの制服が新鮮だ。青木の顔をチラ見して可愛い笑いを浮かべると、不安気に眉をしかめている男へ「大丈夫ですよ。検査は何も痛くないですからね」と言い残し、名残り惜し気にカーテンの向こうへ消えた。

 なんだかなぁ、この吐き気は。これさえなければどこも悪くない気がする。特に吐き気が増すのは空腹時だ。朝、目覚めたときにすぐさま口に飴でも頬り込めばそれなりに我慢できる。だが、今日は検査を言い渡され、朝から何も口にしていない。腹が減ったというより、むしろそのせいか激しくむかついている。気分悪いなぁ。青木は吐き気に耐えつつ、指定された椅子に腰かけた。


 最初受けたのは問診だ。青木の担当になった医師は、青木の説明を聞きながら目の前のパソコンに電子カルテを打ち込んでゆく。

「……そうですか。その吐き気はいつ頃からですか?」

「えーと、一週間くらい前からです」

「なるほど」医師は青木の方へは顔も向けずに手を動かし「どういう時に気分が悪くなるのですか?」と続けて聞いてきた。青木は少し考え、

「そうですね、特に感じるのは空腹時ですかね」と返した。こういう場は緊張する。両手を膝の上で固く握って記憶をたどる。

「食事は取れていますか?」

「いえ、あまり……食べても直ぐに戻してしまうので……」

 そうですか。医師はうなずき、「では、最初に超音波で腹部を見て、それから胃カメラを飲みましょうかね」と診察方針を青木に教え、それから、自分の横で恐ろし気に目を見張った青木に、「緊張しなくても大丈夫ですよ、痛くないですからね」と先程の看護師と同じセリフを口にした。おそらくそれはマニュアルに記載された患者の扱い通りなんだろう。



 室内の灯りを落した暗い部屋のベッドの上に青木は、腹部を出してあおむけに寝かされた。先程看護師から置き去りにされてからすぐに別の医師が現れた。今度は超音波を見る専門医らしい。青木のカルテを見ながら、

「あぁ、胃を中心に腹部の様子ですね。わかりました。吐き気がするんですね」と寝ている青木の横に腰を下ろした。

 上着を開かれ、その素肌にぬるぬるとしたジェル状のものが塗られた。ペタリと置かれ、腹部へくるくると広げられた。ひえーと叫びそうになる口を懸命にこらえる。気持ち悪いし冷たい。こういう時は何か別のことに意識を飛ばすに限る。そう思って、青木は薪の自宅を始めて訊ねた時のことを思い返していた。




「しかたがないなぁ、おまえが来ても何も楽しいことなんてないぞ?それでも良かったら、今度の休みにでも遊びに来い」

 薪は、困った様に俯いて微かに笑った。その伏せた目蓋に青木はもっと笑う。「楽しみにしてます」とありったけの笑顔で返事を返した。

 青木が薪の自宅を訪れた日は、よく晴れた日だった。夏が始まったばかりのつやつやした日差しに照らされ、薪のマンションまで歩いて来た時には、もう髪にびっしょりと汗がはりついていた。

 マンションの入り口で薪に連絡を入れ、エントランス内へ入れてもらったときにはほっとした。それと同時に緊張もした。薪さんの自宅へ俺は入れる。それだけでわくわくする。遠足前日の夜気分を存分に味わった。

 玄関を開けてくれた薪さんの呆れ顔。あの大きな目をもっと見開いて、くちをぽかんと開いた。『おまえ、本気だったんだな。ほんとにここに来るとは思わなかった』と彼は、よく冷えた室内に俺を招き入れコーヒーを入れてくれたのだ。

 広いリビングに置いてある大きなソファ。大きく切り取られた窓から東京の街並みが遠くまで見渡せた。働き始めたばかりの自分にはとても住めそうもない部屋だ。そこに違和感なく暮らしている薪。希望した仕事、望んだ将来をすべて手にしている彼が、青木に眩しく思えた。いつかそうなりたい、薪さんのように明晰で有能な捜査官になる。

 それは青木のこれからの目標になった。それからも適当に理由をつけ、何度も彼の自宅を訪れた。薪が「わかった。おまえがそうしてみたいならここに住めばいい」と言い出すまで。もう、あれからひと月たつ。

 7月1日。その日は青木が薪と暮らし始めた記念日。青木にとって大切な日になった。薪さんと暮らすのは嬉しくて、楽しくて、あっという間だった。もっとたくさん彼のそばにいたい。そう願って青木はなかなか病院へ行く気になれずにいた。

 早く検査を終えて、無事に薪さんのところへ戻りたい。お腹を医師の眼前に差し出し、まな板の上の鯉よろしく寝転んでいる青木の意識は、病院を離れ、第九の捜査室にいる薪の所へ流れ続けていた。



 どれどれ?医師は超音波機の操作を始める。

 ぐりぐり。ローションを塗りたくられた腹部にスキャナを滑らせてゆく。怖い。別に痛い訳ではないが、妙に緊張してしまう。何か見えたらどうしよう?まさかこの歳で何もないとは思うが、それでも胸が不安でドキドキしてくる。時々「んっ?」と言いたげに医師の手が止まり、その度にモニターを操作し画像を写し取ってゆく。

 なんかいらないもんがあるんじゃないか?なんども繰り返し画像を取られ、青木の心臓は縮み上がる。別に痛くもかゆくもないが、それでも暗黒の雲が広がるように不安が胸を覆ってゆく。不安だ。子供だったらべそをかいているところだ。だが、そんな青木の心配も医師は気づかないのか、無言で淡々と検査し続ける。

 ちょうど、へその下あたりにスキャナが滑ったときだった。

「あれっ?えぇ、これは……」

 思わず声が出たのだろう。医師は手を止め何枚も画像写真を撮り、それから青木へ声をかけて来た。落ち着きのないうわずった声だ。

「えーっと、ちょっとこのまま待っててください。すぐに戻りますから」

 そう告げて、腹をさらけ出したままベッドに横たわる青木ひとりを残して足早にどこかへ去って行った。

 ひたひたと不安が忍び寄る。これはあれだ。モニター画面を見ながら、そろそろスプラッタな場面になりそうだな、と身構える時とどっか似ている。怖い。もしかして俺、腹の中に良からぬもんがあるんじゃないだろうか?ドキドキする心臓を深呼吸しながら起き上り、医師が電源を落とさずにいた超音波画面をのぞき込んだ。

 さすがに普段から画像を見ているとはいえ、これはまるで別物だ。しかも白黒で何が何だかよく見えないし。黒く拡がった場所があると思えば、白く波打っている場所もある。要はアレだ。しろうとの自分が覗いてもはっぱりさっぱり意味不明である。だが、フラスコのような三角形に広がった場所に何やら豆粒のようなものが映り込んでいる事だけはわかった。

 なんだろう?この袋みたいな場所にあるものは?

 ぼんやりと、いや、なかば真剣に眉をしかめて食い入るように画像を見つめていると、外からバタバタと慌ただしい足音が複数聞こえて来た。先程の医師が戻ってきたのか?それにしても病院内を走るとはいかがなものか。俺なんて科警研の廊下を走っても薪さんに大目玉を食らうのに。

 急いでベッドに戻る。それと同時にカーテンが開かれ、先程の医師と今度はもっと年配の医師が入って来た。

「先生、これです。見てください!!」

「……えっ、ああ、ここだな……まさしく君の見立て通りだ。話には聞いたことがあるが実際に目にすることが出来るとは……」

「そう……でも、もうこれは奇跡としか……」

「素晴らしい、これは何としても頑張ってもらわねば……」

 ベッドに不安そうな顔つきで間を白黒させている男をふたりはすっかりのけ者にしたまま、画像に映り込んだ青木の腹の内部を見ては興奮気味に「これからどうするかね」とか「誰が担当医になるんです?」と、青木に何の説明もなさず、ふたりの間で話しは流れるように進み続いてゆく。

 いやいやいや……俺はずっとこの姿勢のまま、あなた方に腹を晒し続けているのですよ?そろそろ俺にひと言ぐらい説明してくれてもいいのでは。

 このままじっと待っててもらちは開かないだろう。青木は勇気を振り絞り「あのう……」と声をしぼり出した。

「すみませんが、俺の腹はどうなってます?そろそろくわしく教えて欲しいんですが……」

 
 続く
 

 書きながら自分、どうしようもないやつだな、と思ってしまった。中身のない話しで恐縮です。なかなか終わりません。

 お寄りくださりありがとうございます。

   

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ぜひに押しかけて欲しいです。

鍵コメさま、こんばんは。

わざわざ、わざわざ、お忙しいでしょうにありがとうございます。

そうなんです、このポーチずいぶん悩んだんですが、でも欲しくて今では満足してます。ふふっ。可愛いでしょ?

青木の安産に笑ってしまった。確かにあの大きさですからね、5キロぐらいのジャンボベビーが産めそうな。薪さんだとなんだか気の毒で←苦しそう悪阻が酷くて。

青木のタキシードもう一度清水先生の画で見たいですねぇ。扉絵でぜひに。とか思うんですがどうでしょう。モブ顔の青木ではなく憂い顔の青木で。うー絶対素敵なはず。こっちが目が💛になります。そのままプロポーズだ頑張れ!!

磨きが架かってますか。ありがたい床掃除が。今だけの可愛らしさを存分に楽しんでください。いいなぁ。

ではでは、お返事遅くなりました。コメントくださりありがとうございます。どうぞ、ご負担になりませんように。



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梅雨明け!←めちゃ暑いです

鍵コメ様 こんばんは

分ってましたよ。それでも本能にあらがえないんでしょうね。普段は大人しい子なのに、そういうところは頑固で何度叱っても悔い改めませんでした。まったく……。

ガーとガーと暑いです。しんどい。身体がなれなくてほんとにしんどい。マスクして。炎天下に出たらば本気で呼吸困難になりそうでした。それにしてもねぇ。このままどうなるのか。( ;∀;)

あぁ、夏、そうほんとなにか夏らしいことをしたい。なんか楽しいことないですか?あったら教えてください。すっかりコロナ鬱になりかけてます。ではーーメロディの表紙絵なんでしょうかね。

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こんがりパンみたいです

鍵コメ様 こんばんは。

亜麻色がこの顔をするときは(怒られる―)の時でした。散歩の途中で拾いぐいなんかをしたときに「ああ!」と私が声を上げたらこんな顔になってました。(あーー殴られるウン)の顔。でも今はこのポーチはなでなでされてます。

そうなんですよね、いつの間にかなくなってる給付金どこへいった?と思う。ほんとに。ロクシタン買えませんでした。( ;∀;)

そうでした。あと少しで八月なんでもうすぐですねぇ。ドキドキするというか、もう苦しい展開は見たくない、というか気持ちは複雑です。あぁぁぁやはり怖い。

今日、こちらは梅雨明けしてもの凄く暑くなり始めました。なんだかもう夏バテ気味です。鍵コメ様もどうか気をつけて。長く肌寒い雨が続いていたせいでまったく身体が夏に付いて行けません。ではでは、青木←彼は大丈夫。

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