Babe Honey Love 4






 こんばんは この話がぶっ飛んでいるのはわかっているんですけどね。でもすみません、ラストまで書かせてください。どうしてこんな話になったかというと、このCMが気になってしまったので。メチャクチャ気持ちが悪くて妙に欲しくなりません?このぬいぐるみを使ってイクメンたちが寝かしつけの練習をするそうですが、実際に赤ちゃんはもっとぐずって大泣きしますよね?これじゃ練習にならないんじゃ……。



  





「Babe Honey Love」4



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  約一名少ないだけでも捜査室は静まり返っている。その、各々が真剣に画像と取り組んでいる無音の場所にせわしない足音を響かせて男が現れた。久しぶりに顔をのぞかせたのは所長の田城だ。

 「ま、ま、薪、くん……いるかね?」

 うわずった声で田城は捜査室へ入るやいなや、せかせかと薪を探しはじめた。なにかとてつもない大事件でも起きたのだろうか、やけに動転しているように見える。

 彼は通常良く言って穏やか、あけすけに言えば昼行燈のごとく薄らぼんやりしているが、今日に限ってその動作は俊敏だ。落ち着きなくあわあわと手を動かし、頭部に噴き出た汗をハンカチで何度も拭いあげていた。

 なんなんだ、いったい。無言で画像を見続けていた捜査員たちの額に皺が寄る。この忙しい時にまったく。誰か何とかしてくれ。そんな心の声を受けた宇野が、自身の手を止めてしぶしぶ田城を振り向いた。

「室長なら、自室にいらっしゃいますが?」

「あぁ、いるんだね……良かった」

 薪の居場所を答えた宇野の方へは一瞥もくれず、田城は脚をゆるめることもなく、小走りに来た時と同じくまた廊下へ戻って行った。

「……なんだろう?田城さんにしちゃ、やけに慌ててたけど」

「……さぁ、また猟奇事件でも起きたんじゃ……」

 宇野の疑問に、「ほらっ、夏だろ?冷え冷えするホラー画像も楽しいかもな」と適当な返事を返した小池だったが、それでも自身も気になったのだろう、席を立つと薪の居る室長室へと行きかけた。

「あっ、俺も」宇野もあとを追いかけてくる。ふたりして捜査室から廊下に出てみると、はす向かいの薪の自室のドア前には、すでにもう岡部がスタンバっていた。岡部も田城の滅多にない来訪が気になったのだろうか、小池たちの顔を見、目を細め指先をくちにあてると「シッ、静かにしろ」とくちびるの動きだけで伝えて来た。

 室長室のドアに、合わせて三個の耳がへばりついた。だが、そうするまでもなく、ふたりの興奮気味な大声は、その内容を外まで筒抜けに流していた。

「でも田城さん、そんな話を僕に信じろと?」

「いや、私だって驚いたよ。そういうことがこの頃世界のあちこちで頻発し始めたと聞いたことがあるが、それがまさかここで起きるなんて……しかもあの青木くんにだよ?」

 信じろという方が無理があるのはわかっている。しかし、現実に起きたんだ。とりあえず、薪くん、青木くんを迎えに行ってくれないか?誰か信頼のおける人に彼の体調を詳しく説明し、なおかつ、青木くんの身の安全を確保しておきたいと厚生労働省の事務方管理官から、直接私は連絡を受けたのだ。

「厚生労働省?なんでまたそんなところから……話が大きくなりすぎてませんか?」

「国家の威信をかけてもなんとかにやり遂げたいらしいんだよ。青木くんの病院から連絡が行ったらしいんだ。それにしても弱ったなぁ」

「田城さんが行けばいいんじゃないですか?」

 弱るのはこっちだ。あまりにも突拍子もない話しに、呆れて薪の声も投げやりになる。だが、田城も責任ある立場だ。しかも公務員。上からのお達しは神のお告げに近い。何とか薪警視正に引き受けてもらわねば。必死に言葉を選びながら先を続ける。

「国としては何としてもこの青木くんの身体を監視下に置きたいらしいんだよ。珍しいケースだからね。ま、そういうことだからね、頼むよ薪くん、君んとこの新人は大切だろ?だからさぁ……」

 田城は両手を身体の前で揉みしごき、すがりつくような目で薪を見た。何とか薪くんに行ってもらいたい。無理だから。私では、怖すぎて青木くんの容態を冷静に聞くなんて出来っこない。

「君が迎えに行ってくれないか」

 僕が、か。なにがそういうことなんだろう。そんな顔されてもこれはセンシティブな問題だ。出来れば断りたいところだが薪は第九の室長というだけで科警研での立場は強くない。田城の頼みはほぼほぼ命令に近い。そもそも自分の上にいるのが所長の田城だ。責任ある立場といえば田城の方が適任ではないのか。

 薪は、そう頭の隅で思ったが、いや、しかし……何しろ青木の身に降りかかったことだ。この珍事を何とかしてやりたい。いや、何とかしてやらなければ。聞くところによると無理の出来ない身体らしいし、万一ということもあるらしいじゃないか。もし、そうなったらあの貞淑な妻を失ってしまう。妻……?いや違う。部下だ、おそらく……。


 薪は青木と暮らし始めてからの日々を思い返してみた。なにが気に入ったのか青木は、「薪さんちに行くの楽しいんです」と笑いながら何度も自宅を訪ねて来た。その度に何かしら薪の暮らしに手を貸してくれた。

 廊下の切れたままにしていた電球が明るく光り、ネジが緩んで斜めになった洗面台の扉がきちんと閉じるようになった。見て見ぬふりでも何とか回ってゆく日常生活の微細なあれこれを自分は後回しにしていた。けれど青木は、そんな雑然とした暮らしを、そっと何も言わずにもとに戻してくれた。誰かが自分の生活に組み込まれてゆく感覚、それも悪くない。だからつい、

 「そんなにここが気に入ったのなら、空いている部屋に住めばいい。どうせ僕一人ではつかいこなせないし、そのほうがまだ少ないおまえの給料の足しになるぞ。家賃はいらないが、そのほかは折半だ」

 そう青木に提案してしまったのだ。でもまさか本気で一緒に暮らそうなんて、絶対に応じないと思っていた。なのにあいつは……。

 僕の提案に青木の顔は真夏の太陽みたいに輝いた。それはもう呆れるぐらい喜んで、

「うわーほんとうですか。薪さんと会社以外でも一緒にいられるんです?俺、夢見ているのかなぁ」と、自分で自分の頬を叩き、「痛っ」とありきたりな笑いを顔中に貼り付けた。

 ひとり暮らしの気ままさに慣れ切って、いまさら誰かと一緒に住むなど息苦しいと思っていた。なのに青木は違和感なく僕の部屋に溶け込んだ。まるで家族のように。
 


 薪の自宅はやや大きめの3LDKだ。玄関を入って廊下を奥までゆくとそこがリビングで、その横にあるもう一部屋がある。ここが薪の寝室で、ここにベッドが置いてあった。青木には玄関横の書斎を兼ね雑多に物が置かれている部屋、要は物置を割り振った。

「本が散らかってるけど、勝手に避けて使ってくれ」

「……すみません、では遠慮なく使わせていただきます」

 小さな部屋だ。天井まで続く本棚とベッドがひとつ。以前はときどき遊びに来た鈴木が泊まる場所だった。そこをきちんとかたずけて、青木は、まるでヤマネのようにその場所をここちよい巣へと変えていった。別に新しい家具を置いた訳じゃなく、何か珍しいものを持ち込んだ訳でもない。けれど青木がその部屋を利用するようになって、どうしてだか部屋の雰囲気が一掃した。

 空気の感触が違う。誰かがいるのに静かだ。完璧なひとりとは異なる柔らかで心地よい静寂。そこに、これまでの一人暮らしで感じていた緊張感や冷たさがまるでない。

 忙しい毎日だ。お互いに仕事を持ち帰ってしまうこともある。ほんとうは時間外に部下に仕事なんてさせたくはない。しかし、そうも言ってられないことも、ままあるのだ。別々の部屋で、それぞれの仕事をこなしていても、どこか繋がっていられる安心感。それは青木が本来持っている内面の性質なのか、それとも、青木を包み込んでいた家庭の醸す雰囲気なのかよく分からない。かつて、自分が八歳で手放した全幅の安心を、青木はいまさらながら僕に返してくれた。

 何も憂うことのなかった幼少期、それをふたりでいる事によって僕はまた拾い集めている。

「こんなところで寝ちゃって……薪さん子供みたいですよ」

 青木の声が近づいて来る。ソファで寝転がったまま、うつらうつらしている僕へ響くしなやかな足音。

「……ううんっ、もうここで寝る。いいからほっとけ」

 半分寝ぼけながら突き放すと、睫毛の隙間に困った様に笑う青木の顔。眉を下げ、それでも口もとはほころんでいる。なんだろう、この懐かしさは。ふいに浮かぶのは母親の顔だ。もう、薄っすらとしか覚えていない。

 ___だめよ、剛。もう眠る時間よ。

 読みかけの本を手に寝転んでいた僕へかかる優しい声と柔らかな手。

 そっと頭を撫でられて、「ベッドに行きなさいね」と諭された。不思議な気分になる。もしかしたら、僕はあの頃のあの家で、母に甘えているんじゃないかと思う。今の現実が夢で、目覚めれば子供に戻っているのかもしれない。

 ふわりと持ち上げられる。寝室へ運ばれベッドに納められた。母の小さな手の代わりに大きな力強い手で。

「……おやすみなさい」

 細やかな気配りの出来る青木。まだここにいて欲しいし、失いたくない。思いがけず手にしたこの柔らかな暮らしをまた手放すと思うと、なぜか心が寒々と冷え切った。

 どうしてだろう?青木は僕のただの部下だ。家族じゃないし恋人でもない。しかし、それなのに、今の僕にあいつは不可欠だ。失うなんてとてもじゃないが考えられない。

 あれこれ考慮するに、どうも自分は青木との暮らしをもっと続行したいようなのだ。それがわかったからこそ「じゃぁ、僕が今から病院まで行って来ます」と情けなく眉を下げた田城にうなずいた。仕方がない。そうしたいならそうするまでだ。青木を、僕の目の届く場所へ連れ戻さなければ。

「すまないねぇ。頼んだよ」

 眩しい。こちらへ頭を下げた田城の苦労の後が伺える前頭部を見ながら、薪は、なぜこんなことになってるんだろう、と重いため息を吐いた。


 
 「ちょ、岡部さん、出てきますよ!!」

 田城の手がドアに触れる直前、立ち聞き組は慌ててドアを離れた。急いで、(今、ここを通っていたんですよ、決して立ち聞きなんてしてないですもんね)の、涼しい顔は、田城には効いても薪にはバレバレだった。

 田城に続いて廊下に出て来た薪は、ゴロゴロと廊下であさっての方向を向いてる捜査員たちをじろりと一瞥した。普段の薪ならここで、ネチネチと「おまえたち、よほど暇と見える。では、もう出来たんだろうな、小池、おまえから見せてもらおうか?」と嫌味を言いながら手を伸ばすのに今日の薪はひと味もふた味も違う。両手をズボンのポケットに差し込んだまま目を伏せて、哀し気な吐息を零した。ゆるゆると震える睫毛がやけに淋し気で切なそうでもある。一度、きつく目蓋を閉じ、それからゆっくりともう一度開くと、その美しい蜂蜜色の目で真っ直ぐに岡部を見つめた。

「岡部、落ち着いて聞いて欲しい。青木が……」

「……青木が?」

 岡部だけではない。怖いほど目を見開き、じっと見つめて来る6個のまなこに向かって薪は何とか声をしぼり出した。

「青木が……妊娠したらしい」

「はっ……?」



 続く


 すみません、すみません、そういう話しではないんですけどね、ちょっとどうしてもこうなってます。オメガ設定とかは苦手なのでないです。そこは書いときます。

 
   

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